「もしもあのとき……」
一年の終わりが近づく時、月末、なんなら夜寝る前にも、おとなになればなるほどよぎる、過去の記憶と選択の瞬間。
そんなことを考えても仕方ないとわかりつつ、小さな棘のように心に残ることは、誰もがあるはず。
本書は子供向けにも関わらず、大人のそんな小さな棘を抜いてくれる不思議な本なのです。
「もしも あちらを えらんでいたら」
「もしも あのひとが そばにいたら」
何かを無くしたとき、もう取り戻せないとき、だれでも気持ちは過去へ過去へとさかのぼります。
時には誰かや何か自分を責めてしまうことも。
あの時、正直な気持ちを話せばよかった、みたいな青い思い出からもっと勉強しておけば、とか、あの時諦めなければとか。
もういないあの人と、ちゃんと話をしておけばとか。
思い返すと続く続く。
だれのせいでもないのに、心に小キズを負って、さらにフタをして、なんとか毎日過ごしていることもあると思います。
そんな気持ちをすこし楽にしてくれるお話です。
今やこどもも大人も大人気のヨシタケシンスケさんによる本書は、だれもが抱える「もしも」が、今のこの世界のものではない異なる世界にいる話を描いています。
それは自分が選ばなかった道をゆく、パラレルワールドのよう。
「もしも」という生き物が、月明かりの夜に枕元にくると、自己紹介を始めます。
ページを送るごとにどんな生き物で、どこにいて、何をしてくれるのかを説明してくれるのです。
「あのときのこうすれば」という、選ばなかった世界は失った世界ではなく、自分の中で広がり続けると言います。
あの時の「もしも」は、自分の中の違う世界に同居して、未来の自分のエネルギーになるとも。
ヨシタケシンスケさんのやさしい語りと、「もしも」の世界の考え方が、とてもわかりやすいイラストで描かれます。
まとめ
過去に、たくさんの「もしも」をやり過ごしてきたあなた。
小さな小さなこころの棘を痛くないふりをしてきた方。
あの時選ばなかった世界は決して無駄でも、無くなってもいないということ。
それは言葉にすると簡単ですが、いったいどうして無駄になっていないのか、どうやって生かされているのか、気になりませんか。
「もしも」の世界の住人に教えてもらうことで、なんだかすごく救われます。
また、お子さんと一緒に読むことで、気持ちや考え方もどんどん未来に向いていくことでしょう。
ぜひ、この長く静かな夜にこそ手に取っていただきたい一冊です。